銀杏BOYZについて
銀杏BOYZはいつも”恋”を歌っていた。
ラジオから流れてきた「夢で逢えたら」を初めて聴いた時、僕は本屋も潰れるような田舎に住む中学生で、女の子と付き合ったこともなければ、恋すら知らない童貞だった。それでも、好きな女の子に向けて叫ぶこの人たちの歌を聴いていると、僕は早く恋や愛やSEXを知りたい気持ちになった。
高校生になって、僕は初めて恋をした。隣のクラスの背が低い女の子だった。そして僕にとっての銀杏は、興味から共感に変わっていった。
“君の胸にキスをしたら 君はどんな声出すだろう”(夢で逢えたら)
恥ずかしくて周りには言えないけど心の中で思っていることを、銀杏はいつも大声で代弁してくれていた。初めて恋をしたその子とは、結局高校3年間付き合った。その子は優しくて良い子だったけど、年月が経つと「最初の頃より大事にしてくれない」と泣くようになり、大学受験が近づくと「なんで私の方が勉強してるのに点数が低いの」と怒るようになった。
そして僕は浪人生になり、彼女は10歳年上のバイトリーダーと浮気をした。別れた日は人生で一番泣いたけど、初めての恋愛ってこんなもんだと思う。そこから僕は女の子に見向きもせず、毎日予備校に行った。その頃聴いていたのは銀杏の「メス豚」。
”女なんて嫌いだ 女なんて嫌いだ 女なんてどっかに消えちまえ”(メス豚)
この曲の好きなところは、1番で女性批判を繰り返し、2番になると”本当はやりたいな 本当はやりたいな かわいいあの子と本当はやりたいな”と本音が出てくるところ。モテないから女なんて嫌いだけど、俺だって本当はやりてえよ。と歌う銀杏は、浮気されたモテない僕の気持ちをそのまま表現してくれているみたいだった。というか表現してくれていた。
次の春、僕は東京の大学生になった。そして初めて銀杏のライブを見に行った。その頃の銀杏はオリジナルメンバ―が抜け、ボーカルの峯田和伸一人になっていて、僕の好きな銀杏はもういないのかなと不安だった。けれど生で見るライブの峯田は、中学生の時に初めて見たまんまで、立っているのを見ただけで自然に泣いてしまっていた。
”hello myfriend 君と僕は一生の友達さ”(エンジェルベイビー)
一曲目の「エンジェルベイビー」で峯田が叫んだ時、まるで僕に歌いかけてくれているかのようで、ずっと好きで良かったなと思った。そして気づかないうちに、僕は銀杏に”恋””をしていたのかもしれないなと思った。
大学を卒業した今の僕にとって、銀杏は”原点”みたいなものだ。昔のように毎日聴くことはなくなったけど、女の子を好きになった時や、振られた時、銀杏は今も僕に寄り添ってくれる。銀杏は何も変わらない。ずっと変わらず真っすぐに”恋”を歌っている。そして僕は、これまでのように少しずつ関係性を変えながら、これまでと変わらず銀杏BOYZと一緒に”恋”をして生きていきたいと思っている。